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シリコンの固体物性を利用した現在の半導体技術は、集積度や回路の演算速度が1年半から2年ごとに倍になる「ムーアの法則」に沿って発展しており、技術予測によると10数年後には、シリコントランジスタは長さにして約120ナノメートルまで小さくなります。一方、専門家の予測によると半導体業界がこのままチップを小さくし続ければ、2015年あたりでコストが膨らみ経済的に成り立たなくなるとみられています。この技術的な壁を打開する新たな技術として個々の分子に電子部品としての機能をもたせようという研究が注目を集めています。
その研究の一端に単一分子からなるスイッチ(分子スイッチ)に関する研究があり、これまで電気、光、熱、プロトン、イオン、等で駆動する種々の分子スイッチが主に溶液中で研究され報告されてきています。その中でも2つ以上の環状分子が機械的に絡まった構造をもつカテナンという化合物は、外部刺激によりAの状態からBの状態へと分子を動かすことが出来ることから、分子スイッチとしての利用に注目が集まっています(図1)。 私たちはこのカテナンの構造に注目し、分子内にテトラチアフルバレン(TTF)とナフタレン部位を有するクラウンエーテルと2つのビピリジンをキシレンジブロマイドで架橋した分子内に4つの正電荷を有するシクロファンからなる[2]カテナンを合成しました。このカテナンは図2に示すように、TTF部位を酸化することで容易にAからBへ、還元することでBからAへと可逆的に異性化することが電気化学的にも化学的にも確認されています1)。 このカテナンの分子スイッチとしての特性を評価するために金基板上への固定を試みました。方法としては有機溶媒に溶解したカテナン溶液を水面に展開することにより単分子膜を得るラングミュア・ブロジェット法(LB法)を用いて、得られた単分子膜を水平付着法により金基板上へ移し取り、分子間力顕微鏡(AFM)及び走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて単分子膜の形状及び電圧−電流特性を評価しました2)。その結果、得られた単分子膜は比較的スムーズな均一の膜であること、Aの異性体からなる単分子膜とBの異性体からなる単分子膜の電圧−電流特性曲線より、異性体Bからなる膜の方がより電気を流しやすいことがわかりました(図3)。 この知見は、分子で電子部品を構築しようとするとき、非常に重要な示唆を与えるものであり、カテナンの異性化により導電性を制御することが出来るという可能性を示すものです。しかしながら、ここで注意が必要なのは、この実験結果は個々の分子が異性化することによって導電性に変化を与えたのではありますが、それはあくまで単分子膜という2次元に分子が集積した状態での性質であり、単一分子そのものの特性と必ずしも一致しているとは限らないと言うことです。言い換えると分子で電子部品を組み立てるには、個々の分子それぞれの特性を知る必要があり、そのためには分子1個だけを取り出して評価する必要があると考えられています。この分子1個を取り出して測定するという技術は、まだ確立されていませんが、今後それらの技術が確立するにつれこの分野が飛躍的に発展するものと思われます。
1) M. Asakawa, G. Mattersteig, J. F. Stoddart, et al, Ang. Chem. Int. Ed. Engl., 1998, 37, 333-337.
図1.[2]カテナンの異性化
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