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スピンコート下での液晶分子の自己組織化現象の発見と
それを利用した固体反射膜の作成


- 簡便な高密度記録メモリの作成技術 -

分子工学部 機能分子化学グループ
守山 雅也(科技団特別研究員)
長沢 順一・吉田  勝
秋山 陽久・玉置 信之
高分子化学部 光機能材料グループ
松田 宏雄


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(概 要)
 当研究グループはコレステリック液晶化合物である中分子量(分子量1000程度)のコレステロール誘導体の溶液をスピンコート等の方法で基板に塗布し、溶媒を除去することによって、通常条件で熱的には液晶相を示さない室温付近の温度で、コレステリック液晶配列を有し一定の波長の光を選択的に反射する固体膜が迅速に形成されること、また、反射光の波長は、コーティングする基板の温度を調整することで容易に制御可能であることを見いだした。中分子液晶化合物を用いたこの製膜方法は、反射光を用いて非破壊読出しを行う高密度分子メモリーデバイスの簡便な形成技術として、応用が期待される。

(コレステリック液晶)
 コレステリック液晶はらせん状の周期構造を有する分子配列に応じた特定の波長の光を選択反射する(図1参照)。らせん周期=Pの分子配列を有している場合、らせん軸に平行に入射された光のうち波長λ=nP(ここでnは液晶の平均屈折率)を中心とした波長幅Δλ=PΔn(Δn=屈折率の異方性)の片側の円偏光のみが選択的に反射され、その他の波長域の光は透過する。もし、反射光が可視域の光であれば、コレステリック液晶はきれいな色(反射色)を呈することになる。

(背 景)
 液晶相からの冷却で液晶配列を維持したガラス状の固体を形成する液晶化合物の中には、その溶液を基板に塗布し、溶媒を除去することで液晶配列を有するガラス状固体を形成するものが存在する。しかしながら、これらの性質を示すほとんどは高分子液晶化合物で、分子の配列が遅いために溶媒をゆっくり除去する必要があり、液晶配列を有した均一な固体膜を作成するためには非常に時間を要する。そのためスピンコートのように迅速に溶媒が除去される方法では、分子配列速度が追いつかず、液晶配列を有する均一な固体膜を得ることはできなかった。また、配列の速い低分子液晶は、ガラス状固体そのものを形成しにくいため、それらを用いた応用は流動性のある液晶状態に限られる。
 近年当研究グループは、中分子量(分子量1000程度)のコレステロール誘導体がコレステリック液晶相での速い分子配列と室温で安定なガラス状固体を生成する両方の性質を兼ね備えていることを見出し、この中分子コレステリック液晶の物性および利用方法について検討を行ってきた。

(研究成果)
 図2に示す中分子液晶化合物1は、100℃付近でコレステリック液晶相を示すサーモトロピック液晶である。また、液晶相から急冷却することで液晶配列を維持したガラス状固体(固体反射膜)を形成する。一方、化合物1を塩化メチレン等の有機溶媒に溶解し(10〜15 wt%)、その溶液をワイヤー・バーまたはスピンコーターを用い、室温付近の温度でガラス基板上に均一に塗布した後、溶媒を自然に除去することによって同様な固体反射膜が迅速に形成されることが分かった(膜厚は〜3mm)。形成される固体膜の色(反射光)は溶媒の種類や基板温度に依存し、塩化メチレン溶液からの固体膜については作成温度が低いほど長波長の光を反射した。40℃で緑色(lmax " 530nm)、20℃で赤色(lmax " 610 nm)、さらに2℃で作成するとその反射光は赤外域(lmax " 830nm)まで長波長化した。図3にスピンコート法で作成した固体膜の写真を示す(左から塩化メチレン溶液、約40℃、約22℃で作成した固体膜)。
 1は溶媒を含むことによって液晶相温度が低下することも分かったが、72wt%以下の濃度では液晶相をとらず、室温付近で液晶相を示す濃度は存在しなかった。しかし、基板に溶液を塗布した後の溶媒が急速に除かれる非平衡状態では、高濃度域に室温付近でコレステリック相を示す濃度が存在し、その後も溶媒が急速に除かれることによってコレステリック液晶配列を保持した状態で固化するものと推察される。
 簡便で均一な製膜を実現するために、スピンコートは非常に有用な方法である。本研究は液晶配列を有する固体反射膜がスピンコートで得られることを示した初めての例である。

(高密度記録を可能にする分子メモリデバイスへの応用)
 CD-Rに代表される情報記憶媒体に関しては、使用されている反射膜が光の一部を吸収し、徐々に光化学的に破壊されることが問題のひとつである。これまでCD-Rの反射膜として利用されているのはフタロシアニンやシアニン色素の薄膜である。これらは、スピンコートのような簡便な方法で作成できるといったメリットがある。しかし、色素であるため可視域の読出し光の波長域で光吸収し、室内光や読出し光によって膜の劣化が起こる。一方で、反射波長域で吸収を全く起こさない反射膜としては、古くから誘電体ミラーが知られているが、反射光の波長を一定にするための厳密な膜厚の制御が問題であった。
 この問題を解決する手段として、本研究成果は非常に有用であると考えられる。読出しに使用する光は化合物の吸収波長とは異なる波長に設定することが可能であり、その設定方法も作成基板温度を制御するだけで非常に容易に行うことができる。
 また、CD-R等の記録情報の高密度化に関しては、現状では記録の最小単位が、読出し光の波長サイズで制約を受け、一定の面積に1ビットの記録しかできないことに問題がある。もし、読出し波長の異なる反射膜を簡便に積層することができれば、記録密度の向上も可能となる。本研究成果はこのような多重記録媒体を作製することができる可能性もある。多層膜の作成については現在詳細に検討中であり、既に異なる光を反射する2層膜の作成には成功している。


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