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超臨界流体を用いる新しい形状選択的有機合成技術の開発


−超臨界状態のメタノールを用いたナフタレンの形状選択的メチル化反応−

静岡大学工学部 (元物質研)佐古  猛
物質工学工業技術研究所  菅田  孟
新日鐵化学(株)     七条 保治


1.背 景
 2,6-ジメチルナフタレン(2,6-DMN)は、最近その高耐熱性・高ガスバリア性などの特性から需要を伸ばしているポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂の原料前駆体として有用です。PEN樹脂の優れた物理特性の発現は、2,6-DMNの分子構造すなわち剛直なナフタレン環と対称性の良い位置に置換されたメチル基に由来していると考えられますが、ナフタレンとメタノールを出発物質とし、直接2,6-DMNを合成する方法は、ナフタレン環の他の位置に置換された異性体が多く生成するなどの理由から実際の製造プロセスに採用されるには至っておらず、現在はBP-Amocoによりo-キシレン・ブタジエン法で製造されています。しかしながら、ナフタレンからの直接合成法は、鉄鋼副産物タールの有効利用の観点からも安価なメタノールの有効利用の観点からも大きな意味を持ち、効率のよい製造方法の開発が望まれています。

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 一方、超臨界流体を用いる合成反応は、通常の気体や液体の反応場に比べ、大きな反応性を持つと期待されており、また、触媒活性を低下させるコーク先駆物質等を触媒表面から洗い流す効果により、触媒寿命を向上させる効果も期待できます。
 そこで、私たちは、超臨界状態のメタノールと固体触媒を組合わせる事によって、鉄鋼副産物タール留分などの芳香族化合物を有効利用し、かつ、ジメチル硫酸やハロゲン化メチルといった有毒な反応物を用いない、本質的に省資源で環境調和型の化学プロセスの実現を目指し開発を行なっています。

2.超臨界メチル化反応の概要
 一般的に、対称性の良い分子を形状選択的に合成する手法として、数Å(オングストローム=10-10m)の微細な孔を有するゼオライト触媒を用い、例えば図1に示すように、窮屈な細孔内で反応させることにより、最も対称性の良い分子だけを合成する方法があります。

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図1:ゼオライト細孔内での形状選択性発現機構のモデル

 この場合、形状選択性を十分に発現させるためには、ゼオライトの細孔径・細孔構造、反応基質・反応生成物・反応中間体の立体的関係を精密に制御する必要があります。しかし、反応基質とゼオライトの細孔は、「鍵」と「鍵穴」の関係にあり、かつ、それぞれのサイズは決まっているため、自由に制御することはできません。
 ところが、私たちは、ナフタレンとメタノールから2,6-DMNを合成するに際し、超臨界状態のメタノールをメチル化剤として用い、反応温度と反応容器内のメタノール密度を変化させることにより、ナフタレンとゼオライト細孔径の「鍵」と「鍵穴」の関係をコントロールできることを見出しました。
 反応は、容量10mLのステンレス管に所定量のナフタレン・メタノール・ゼオライト触媒を入れ、所定の温度の溶融塩浴で加熱することにより行ないました。反応後の生成物を分析し、2,6-DMNと2,7-DMNの生成比で反応の形状選択性を評価しました。図2に示すように、メタノールの密度を上げるにしたがって2,6-DMNと2,7-DMNの生成比は大きくなっています。

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図2:超臨界メチル化におけるメタノール密度と形状選択性の関係

 従来の気相反応では、最適なゼオライト細孔径の選択、金属元素の導入又はゼオライト酸点の調節、外酸点の被毒等により、形状選択性の向上が図られていますが、2,6-DMNと2,7-DMNの生成比は1.4〜1.7程度であり、鍵と鍵穴の関係を脱却するには至っていません。これに対して、超臨界メチル化では、形状選択性の高さもさることながら、反応条件を変化させることにより形状選択性を制御することが可能であるという点で画期的であると考えられます。
 選択性の発現機構については、現時点では不明ですが、ゼオライト細孔内でのメタノールと細孔壁との相互作用によるメタノール凝縮状態の変化が引き金となっている可能性があります。同じような現象は、トルエンのメチル化等でも確認できており、ゼオライト触媒の細孔を利用した超臨界メチル化反応に共通した現象であると言えます。


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