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グルタールアルデヒドによる化学架橋法の研究

計測化学部 川原 順一,極限反応部 石川 啓一郎
基礎部 内丸 忠文,計測化学部 高谷 晴生


1.はじめに
 化学架橋反応とは、高分子などの分子鎖間を化学結合により橋架けする反応のことである。考え方としてはシンプルなものであるが、高分子材料等に対するプロセシング技術として大きな可能性を持っていると考えられる。というのは、材料の分子構造に着目すると、この反応による単位構造の変化は一般に小さいが、分子全体としての構造は大巾に変化することになるからである。化学架橋反応による分子物性・材料物性の変化は、低分子を重合させて高分子を作り出す場合のそれに例えることが出来よう。
 化学架橋反応としては種々のものが実用化されているが、それらの中でもグルタールアルデヒド(GA)を用いた反応は、その用途の広さにおいて代表的なものといえよう。GAを用いた反応は非常に高い架橋効率を示し、ライフサイエンス分野において生体組織片の固定・その他に使用されているが、現在、種々の高分子を素材とした機能性高分子材料構築のための手段として、あるいは環境に優しく人体に安全な新しい革なめし法の候補の一つなどとして、大いに期待されているところである。
 これらの目的における到達度を高めるためには、反応の分子機構や形成された架橋部分の構造や性質を知る必要があるが、最近の我々の研究により、グルタールアルデヒドによる架橋反応は他の架橋試薬と全く異なる特異な反応機構によることが明らかになってきた。

2.結果と考察
 我々はまず、水溶液中におけるGAの分子構造について調べた。従来等閑にされがちだったGA分子構造に対する溶媒の影響の可能性や測定手法の定量性に注意を払いながら、紫外分光法、光散乱法、13CNMRにより測定・解析したところ、生化学における通説とは異なり、GAは非濃厚水溶液中においては数種の単量体構造の平衡混合物であることが明らかになった(図)1,2)
 さらに紫外分光法、光散乱法、エレクトロスプレーイオン化質量分析法により、架橋反応過程の分子機構について調べたところ、他の架橋試薬の様に「試薬分子がそのままの形で相手の分子間を架橋する」のではなく、架橋反応と並行してアルドール縮合によりGA分子自らが重合して長大な架橋鎖を形成することが明らかになった。その詳細な機構としては、ある単量体GA分子とアミノ基の間でシッフ塩基が形成され、そのことにより活性化された当該GA分子に対し他の単量体GA分子が重合していくことが示唆された。さらに、シッフ塩基結合を含むGAモノマー単位では、アルドール縮合に続いてα、β炭素間での脱水反応までほぼ完全に進行することも示唆された。(このようにして、形成されたシッフ塩基結合はエチレン性2重結合と共鳴することになるので、安定化する。)

3.おわりに
 以上のようにGAは、架橋反応前は低分子であるために、対象材料・組織片の中への速やかな拡散浸透が可能であるが、ひとたび架橋反応が始まると自身速やかに重合して長大な架橋鎖を形成し、架橋点間に要求される空間的制約を緩和するという、効率的な架橋反応という点では理想的な特性を持っていることが明らかになってきたところである。
 以上の成果について、昨年8月の米国化学会全米大会で発表した3)ところ、注目される内容として、同学会の機関誌にその概要が紹介された4)
 我々は今後、形成される架橋鎖の分子構造や物性についてさらに調べるとともに、それらを架橋反応条件によりどのように精密制御しうるか、材料として発現するマクロ物性や機能との関連において検討を進めていく計画である。

 1) Kawahara, J.; Ohmori, T.; Ohkubo, T.; Hattori, S.; Kawamura, M. Anal. Biochem. 1992, 201, 94.
 2) Kawahara, J.; Nagawa, Y.; Ichijo, H.; Hirasa O. submitted.
 3) Kawahara, J.; Ishikawa, K.; Uchimaru T.; Takaya H., Proceedings of the American Chemical Society (Division of Polymeric Materials: Science and Engineering) 1996, 75, 149.
 4) Chemical & Engineering News 1996, 74(38), 43.

物質研NEWS (No.23, 1997)


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